ペンと剣は戦わない

生きていくために俺はあと何を犠牲にすればいい?

携帯電話

 僕はただ携帯電話を握る。強く、ぎゅっと。

 

 最初は携帯電話と言っても肩にかけて持ち運ぶものでとても携帯できたものじゃなかった電話機は時を経るにつれてだんだんと小型化・軽量化に成功しそしていつしか電話機としての機能からも脱却していった。

 その最新型と言えるスマートフォンが、今僕の手の中にある。僕はそれをぎゅっと握る。いつしか人間は電話機に依存するようになっていく。僕もきっと依存しているのだろう。何もなくてもただ触れるだけで安心できているのだから。

 不意にスマートフォンが光る。Twitterで誰かからリプライが来たらしい。僕はのそのそと指を動かし、リプライを返す。相手は会ったことも声を聴いたこともない人間だ。けれど、それがたとえ画面上だけの空虚な言葉であったとしても僕は安心する。愚かだと言われればそうなのかもしれない。けれども、たとえ空虚なものであっても僕はやさしさがほしいのだ。

 リプライを送るついでにTLをぼーっと眺める。今日も誰かが生きるの死ぬの騒いでいる。いつもと変わらない、騒がしいTLだ。誰かがこんなことを言っていた。「あなたはなぜ生きているのですか?」死ねないから仕方なく生きているだけだよ、と僕は小さく口にする。やれやれ、ただの電話機風情が哲学的な問題を投げかけてくるとは。お前はいったい何なんだ?

 軽いはずのスマートフォンが時々こうして不意にものすごく重くなる。生意気だ、と言いながら僕は不意に壁に向かってそれを投げつける。そうしておいてさみしくなってまた手にとって部屋の隅に腰をおろす。あーあ、まるで学習していない。同じことをするのは何回目だろう?

 

 僕はただ携帯電話を握る。強く、ぎゅっと。